0 導入
「CAT IIIのILSがある空港なら、どの飛行機でもCAT IIIで降りられるよね?」
「CAT II/IIIって、ILSの性能の話でしょ?」
こういった誤解はとても多いです。実際、私自身も最初はそう思っていました。
結論から言うと どちらも“半分正しいけど、半分違う” が答えです。
この記事ではまず、CATの正体を “混同しやすい3つの意味” に分けて整理します。ここを押さえるだけで、CAT II/IIIの理解が一気にスッキリします。
1 結論:CATは「運航のカテゴリー」
CAT(Category I/II/III)は、ICAOの枠組みでは基本的に
精密進入(precision approach)で、どこまで低いDH/RVRで運用するか
= 進入・着陸の運航上の区分
を表す言葉です。
つまりCATは、ILSの“機材の種類”というより**「運航の最低条件(最低気象条件)」**の話です。
1-1 DHとは何か(超要点)
DH(Decision Height:決心高)は、簡単に言うと
「進入中に“着陸を続けるか、復行するか”を最終判断する高度」です。
具体的には、精密進入(ILSなど)においてパイロットがこの高度に到達した時点で、
- 必要な視覚情報(滑走路灯火・進入灯・接地帯など)が見えていれば → 着陸継続
- 見えていなければ → 即座に復行(Go-Around)
という判断を行います。
ここで重要なのは、DHは単なる高度ではなく「意思決定のトリガー」であるという点です。
同じ“高度”でも、通常の高度(例:高度計での通過点)とは意味が異なり、
DHは「安全に着陸を続けるための最低限の視覚条件とセットで定義される運航上の基準」です。
1-2 RVRとは何か(超要点)
RVR(Runway Visual Range:滑走路視距離)は、簡単に言うと
「滑走路の中心線上にいるパイロットが、滑走路の灯火や標識をどのくらいの距離まで見通せるか」を、滑走路上で測って数値化した指標です。
同じ“見える・見えない”でも、気象台が出す一般的な視程(Visibility)とは別物として扱われます。
理由は、航空気象における視程とは卓越視程のことをさしており、これは観測点から見た周囲の見通せる距離を、1つの代表値としてまとめたもの。つまり、局所的な値が分からないといった弱点があります。
しかしCAT II/IIIの世界では、
- どの滑走路の
- どの地点(TDZ / MID / ROLLOUT など)で
- 何が見えるか
が運航判断に直結します。例え観測地点周辺の視程が良好であったとしても、接地帯付近が局所的に何も見えなければ意味がありません。
このため、CAT II/IIIの運用最低気象条件(minima)は「視程」ではなく「RVR」で規定されることが多くなります。
2 【最重要】CATは「3つの意味」で語られる(ここが混乱の原因)
ここからが本題です。実務でCATが語られる場面は、大きく3つあります。
この3つを混ぜると「CAT=ILSのグレード」という誤解が起きます。
2-1 運航カテゴリー(Operation Category)
何を決めている?
→ 「どこまで低いDH/RVRで進入・着陸をしてよいか」
たとえばICAO Annex 6では、CAT IIIA/IIIB/IIICをDH/RVRで定義しています。さらに、EUR Doc 013の定義(要旨)はこうです:
- Precision approach runway CAT I:DH 60m(200ft)以上+(Visibility 800m以上 または RVR 550m以上)
- CAT II:DH 60m未満〜30m(100ft)以上+RVR 300m以上
- CAT III:DH 30m未満(またはDHなし)+RVR 300m未満(またはRVR制限なし)
2-2 滑走路側のカテゴリー(Precision approach runway CAT I/II/III)
何を決めている?
→ 「その滑走路がCAT I/II/III運航を“受け入れられる”設備・運用になっているか」
ICAOの地域ガイダンス(EUR Doc 013)では、滑走路側のカテゴリーを
- 非視覚援助(例:ILS)
- 視覚援助(灯火など)
のセットで、CAT I/II/III運航を意図した滑走路の区分として定義しています。
ここから分かるのは、「CAT IIIの空港」という言い方は本当は、
“CAT III運航を意図した設備と手順を備えた滑走路(飛行場)” という意味だということです。
2-3 ILS地上施設としての性能(Facility Performance)
何を決めている?
→ 「ILSがCAT II/III運航に必要な信頼性(監視・継続性など)を満たすか」
この話はICAO Annex 10の領域(航法援助施設の基準)で、CAT II/IIIになるほど要求が厳しくなります。
ただし、ここまで入れると1本目は情報量が多くなるので、今回は “存在だけ紹介” に留めます(詳細は別記事で深掘りします)。
3 よくある誤解を整理
❌誤解①「CAT IIIのILSがある空港なら、いつでもCAT IIIで降りられる」
→ 違います。
CAT III運航が成立するには、少なくとも
運航の条件(運航カテゴリー) と 滑走路の受入れ能力(滑走路側カテゴリー) が揃う必要があります。
(さらに実務では、航空機・乗員・運航者承認まで“AND条件”になりますが、これは次回以降で扱います。)
❌誤解②「CAT IIとCAT IIIはILSのグレードの違い」
→ 半分正しくて半分違う。
CATは基本は運航区分(DH/RVR)です。
ただし、その運航を成立させるために 滑走路側の設備・運用 や ILS地上施設の性能要求 がセットで語られるため、「ILSのグレード」に見えてしまう、という構造です。
4 まとめ
最後に、今回の要点を3つにまとめます。
- CATは ILSの種類 ではなく、進入・着陸の運航区分
- CATは実務では 運航/滑走路/地上施設 の3レイヤーで語られる
- 「CAT III空港」という言い方は、正確には CAT III運航を受け入れる滑走路側の能力 を指している
次回はCATⅡ/Ⅲの定義をDHとRVRで読み解くことを目標にします。
参考文献
- ICAO『Manual of All-Weather Operations(Doc 9365)』 CAT I/II/IIIを含む全天候運航(AWO)の考え方や、運航最低気象条件(minima)の枠組みを整理した中核文書。
- ICAO EUR/NAT Office『EUR Guidance Material on All-Weather Operations at Aerodromes(EUR Doc 013)』 滑走路側のカテゴリー(Precision approach runway CAT I/II/III)や、LVP(低視程手順)を中心に、空港側のAWO要件をまとめた地域ガイダンス。
- ICAO『Annex 6 — Operation of Aircraft, Part I』 低視程の計器進入・着陸を「運航者承認(specific approval)」の枠組みで扱うなど、CAT運航の制度的な根拠となる付属書。
- ICAO『Annex 10 — Aeronautical Telecommunications(Radio Navigation Aids)』 ILSを含む航法援助施設の性能要求(完全性・継続性など)を定めた付属書。
- SKYbrary「Precision Approach」 精密進入およびCAT I/II/IIIの概要整理(概観理解用の補助資料)。

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